【随想】渋谷スクランブルスクエアへ
駅から一番近い文房具屋さん調べたら、スクランブルスクエアの10階にハンズ入ってるって、降りた足で便箋と色ペン買って、その辺のカフェで急いでお手紙書いてライブ行った。スクランブルスクエアの店に入ったのは多分初めて。
完成してすぐの頃、乗り換えでエスカレータ降りてたら、後ろのおじいちゃんたち言ってたね。「最期に新しい時代の渋谷を垣間見れたね」、「うん」って。あの人たちまだ生きてるか知らないけど、そうだ、これが新しい、自分たちの渋谷なんだって、誇らしかったよね。
緊急事態宣言明けて久々に出社したとき、ひと月前とは見違えるほど急に建物伸びててびっくりしたよ。スクランブル交差点に誰もいなかったのより驚いた。宣言前日にオープンしたお店がそのまま潰れても、この街自体は止まってないんだって、はじめて明るい気持ちになったよ。
親が遊びに来てヒカリエでミュージカル見たとき、向かいで馬鹿デカいビルが工事してたのをすごい憶えてて、いまだにその話されんの。自分はもうあのビルは出来たんだ、これこれこういう風で! っていつも言ってる。
『ホットギミック ガールミーツボーイ』が好きなのは、映像自体も素敵だけど、工事中のビルが写ってるから。自分のいた渋谷駅前が写ってるからだよ。
自分も優等生だからさ、渋谷の再開発みんな嫌ってるのもわかるよ。宮下公園のこともあるしね。
でも、北陸からホンモノの渋谷に出てきてさ、もう完成してる渋谷、どこかで聞いたことある渋谷、みんなが知ってる渋谷じゃなくて、自分より新しい渋谷はキミだけだった。駅前に出るたびに、自分と同じように新参で少しづつ成長してるキミがいるのは心強かった。
新しい乗り換えをおぼえたときも、仕事で東京中駆け回ったときも、イベントでワクワクしながら通り過ぎたときも、社長に散々説教された帰りも、馬鹿みたいに酒飲んで路上で死んでたときも、ハロウィンで軽トラ引き倒してるのを横目に通り過ぎたときも、朝5時に帰ってまた8時に出てきたときも、仕事辞めて実家帰ったときも、キミはいつも工事中だった。
アタシはもう渋谷の人じゃなくなっちゃったけど、あとはキミがよろしくやってよ。渋谷スクランブルスクエア。

【オタク懺悔】好きなキャラと同じ声が聞きたすぎて全然関係ないASMR作品を聴く
タイトル通りASMR作品にかんする記事です。
拙者も古の硬派オタク、「ASMRぅ?? ブォホォwwww 人気声優を起用したちょっとエッチな音声などには釣られませんぞwwww ww そんなの高校生が聴くものでござろうww ww ww ww ww ww 」みたいな構えがあったのですが、普通に話が良すぎて完全に負けました。
「話が良かった」とか言うと、脊髄反射で古いオタク自我からツッコミが入ります。
「ふーん、で、君は涼宮ハルヒのキャラで誰が好きなの?」
「オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww おっとっとwww拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww まあ拙者の場合ハルヒ好きとは言っても、いわゆるラノベとしてのハルヒでなく メタSF作品として見ているちょっと変わり者ですのでwwwダン・シモンズの影響がですねwwww ドプフォwwwついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬www まあ萌えのメタファーとしての長門は純粋によく書けてるなと賞賛できますがwww 私みたいに一歩引いた見方をするとですねwwwポストエヴァのメタファーと 商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww 朝比奈みくるの文学性はですねwwww フォカヌポウwww拙者これではまるでオタクみたいwww 拙者はオタクではござらんのでwwwコポォ」
ですがもう令和なのでこの辺は無視していきましょう。
プリマジ観た?
ところでみなさん、アニメ「ワッチャプリマジ!」はご覧になられましたか?
自分はこの作品に登場する甘瓜みるきちゃんの大ファンで、毎週テレビの前で「みるきたそ〜」と鳴きながら楽しく観ていました。
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かわいすぎ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
正直、みるきたそに古のオタクみたいなパートナーがついたり(同族嫌悪)、モラハラ彼氏みたいな妖精がついたりしたときはキレ散らかしてましたが、「プリマジ」のシリーズはアニメが3年続くのが基本なので、まあ最終的にいい感じの話になればいいよね、それよりもこんなにかわいいキャラを3年も見られるなんて幸せだよ〜〜〜〜オタクで良かった〜〜〜〜みたいなノリでした。
今思うとこの余裕が良くなかったんですね。「プリマジ」は1年で終わってしまい、シリーズ自体も休止してしまったのです。 これにはかなり動揺しました。みるきたそはもういない!?
しばらくはみるきたそ活躍回を見直したり、リアルライブを見たり、グッズを買ったり、ファンアートを見たりして耐えていたのですが、最近耐えきれなくなってついに悪の思考に負けてしまいましたーーーー
担当声優が同じ別キャラでなんとかならん?
虎ノ門うめさん
ジェネリックみるきを探す禁忌の旅ーーーーその果てに見つけたのが、「結構乙女なオタサーの姫の献身的なマッサージ。――私のとりこにしてあげます」です。
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みるきたそとなぜか似ている声をお持ちのキャラクターは、虎ノ門うめさんです

このASMRは、アニメ「ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生」の派生作品です。このアニメ、少し前に放送していたことは知っていたのですが、炎上商法まがいのことが耳に入っていたので、かなり意識的に視聴を避けていた作品でした。硬派オタクとしてもな。ですが、今は自分とて禁忌を犯した身、毒を食らわば皿までです。虎ノ門うめさんがどんな人かはまったく存じ上げませんが、この作品をさっそく聴いてみることにしました。
...............
みるきたその声で色々してくれて満足だよ〜〜〜〜〜〜
というのが感想の半分です(重要)。虎ノ門うめちゃんは様々なオタクを"とりこ"にする小悪魔的振る舞いを自ら武器にしていて、自分に全然なびいてこない主人公をあの手この手(ここにASMRが入る)で籠絡しようとしてきます。その部分はメチカワで本当によかったんですが、それだけだったらうめちゃんは自分の中で単なるジェネリックみるきのまま終わってしまうところでした。ところがそうはならなかったんです。

うめのとりこになるように
この作品、無から生じた主人公(=自分)に無から生じたヒロインがあれこれしてくれるみたいな話では全然なくて、設定がちょっと複雑なんですね。
複雑な設定というと、アニメ版を視聴済みの方は「ASMR部(何?)に所属するヒロインたちが、ASMR甲子園(何?)へ向けて練習する様子を、ダミーヘッドマイクに転生した主人公(何?)が聴く」みたいな設定を想像するかもしれません。ですがASMR版の主人公周りの設定は実はぜんぜん違います(自分は後からアニメを見てビビりました)。主人公(=自分)はふつうに人間として登場してきます(なおASMR部とかASMR甲子園とかは健在です)。複雑なのは人間関係です。
聴いてみてすぐびっくりしたんですが、この作品、主人公(=自分)にデフォルトで別の彼女がいます。これより前にリリースされた作品でそういうくだりがあったのかもしれませんが、自分はここがスタートなのでこの彼女は無から発生しました(記事執筆時も、うめちゃんが出てくる作品以外は聴いてないので詳細は謎です)。自分の側にそういう重要な設定があるとはまったく予想してなかったので、初聴時には話がうまく飲み込めず、何度か巻き戻してしまいました。
ただ正確に言うと、主人公と彼女はまだ正式にはつきあってないんですね。主人公はキープくんということです(いつの言葉?)。そしてうめちゃんの方も、ずっと昔から主人公に好意を持っていたんです。そうすると、ASMR部分の主人公に対する小悪魔的言動も、一オタクを自分のファンにしてやろうということではなくて、彼女のスキを突いて主人公を盗ってやろうという略奪の意味合いが入ってきてるんですね。
ところが話はそう簡単には行きません。うめちゃんは彼女のことも普通に先輩としてリスペクトしていて、いい友人関係を築けているんです。うめちゃんには友人関係をうまくつくることができなかったという過去があるんですが、今は彼女とも、他のASMR部のメンバーとも、そして主人公ともいい関係をつくることができています。そしてその人間関係をとても大切にしているんですね。幸せそうです。でもその幸福な関係は、主人公への恋心を諦めることでかろうじて成立しているんです。こんなに切ないことってありますか?
作品が後半に進むにつれてこのような人間関係が明らかになってきて、友情と恋心の間で複雑に揺れるうめちゃんの心模様が描かれることになります。このあたりになってくると、自分はうめちゃんの方に感情移入しすぎて、音声が自分(=主人公)に語りかけられているという視点を取ることができなくなり、普通に第三者の視点からうめちゃんの行く末を見守る謎の存在になっていました。
こうして、ASMR部分の小悪魔的言動とはぜんぜん違うところで、自分はうめちゃんの"とりこ"になってしまいました。ASMR甲子園にASMR部というめちゃくちゃな設定の本作ですが、うめちゃんの悲恋だけはホンモノなのです。
子守唄で泣く
もっとうめちゃんのことを知りたくなったので、他の作品も聴いてみることにしました。うめちゃんにはソロ1作品以外にも全体作品が2、さらに他キャラクターとのペア作品が2あります。このペアの組ませかたが邪悪としか言いようがなく、主人公の彼女とのペア、および、彼女の妹とのペアなんですね。うめちゃんには憧れている別の先輩キャラがいるという設定があるのに、その先輩とのペア作品を捨ててまでこの2作品というのが怖いです。こんなヒリヒリした設定の作品を聴きたかったわけじゃないが?
とはいえ、どちらの作品でも泥沼の展開が直接出てくるわけではありませんでした。表面上は、うめちゃんは彼女ともその妹とも友情を確認する形で終わります。ですが、上の人間関係を踏まえると、この姉妹との友情がまためちゃくちゃに悲しいんですよね。
ここで、ソロ以外の作品の中で特に素晴らしかったものを一つ紹介します。うめちゃんと彼女のペア作品、「ばぶばぶ癒やしRemix!――女友達と後輩に赤ちゃん扱いされる話」です。
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あまりにも ひどすぎるだろ タイトルが(芭蕉)
いまASMR界では赤ちゃん言葉が覇権を握っているため、それを習得するべく主人公を赤ちゃん扱いして練習するーーというタイトルに違わぬひどい設定の話なのですが、ポイントとしてトラック9になんと既成の子守唄の歌唱が3曲も入っているんです。キャラの歌うカバー曲はオタク全員好きですが、子守唄のカバーとかあるんだ。
うめちゃんが「きらきら星」をなぜか英語で(おそらく日本語詞の著作権が残っているため)歌ってくれたのにはオタク特有の笑みをこぼす余裕がありました。ですがその後、うめちゃんと彼女のデュオで「ゆりかごのうた」が歌われたとき、思わず感極まってしまいました。うめちゃんは一体どういう心情でこの歌を歌っていたんでしょうか。尊敬する先輩だが恋敵でもある彼女と一緒に、主人公に歌をうたってあげるーーその姿を想像すると普通に悲しくなってしまって、ポロポロと涙がこぼれました。北原白秋と草川信による素朴な詞と旋律がそうさせたのかもしれませんが...... オタクをやってると年甲斐もなく涙を流すことがありますが、まさかこの歳になって子守唄聴いて泣くことがあるとは思ってなかった。
この涙とともに、虎ノ門うめさんをジェネリックみるきだと見る目の鱗も完全にこぼれ落ちてしまいました。そしてもう一度目を開いた時そこには、目の前の幸福を悲しい予感とともに受けいれる、一人の人間の真実な姿があったのです。
【随想】私の部屋に写真がない理由
昔から、日記が続かなかった。
三日くらい経って読み返すと、たった三日前の自分の考えていたことがなーんか嫌でさ。その三日間の日記をびりびりとやぶいちゃうの。でまた何日か経つと同じことをやるのよね。何が気に入らないか知らないけど。
いまもそういうのは治ってない。
先日、ハハがケータイをようやく機種変した。もう何年使ってるかわかんないやつで、ハハはSNSとかに写真アップする人なんだけど、その画質がもうひどいのね。じぶンとこの商品の宣伝にも使ってるんだからカメラ良いやつにしなよって何回か言ったんだけど、写真消えるかもしれないのがヤなんだって。結局水没して使えなくなったのがタイミングで、それでもデータは復旧できて嬉しそうだった。
私はと言えば、スマホ修理に出すのに「データが消える可能性が云々」を見もしないで書類にサインするタイプ。画像が飛んでもアニメのキャプが消えるくらいだし、仕事とかで重要なものはクラウドにある。つまり私のスマホにないのは、思い出とか記録とかそういうもの。スマホだけじゃなくて部屋にもない。日記もなければ写真もない。もちろん、ツイッターで毎日行動をつぶやいてるし、写真もアップしてるけど、全然「記録」っていう意識がない。コンテンツとして出している。コンテンツなので面白くないなと思ったらよく消す。
自分の人生を記録することにかなり強い抵抗感がある。理由を考えるといくつか思い当たる節があって、3つくらいあげようかな。
まず、記録を持ってるとケンカに勝っちゃうこと。流石に今はほとんどないけどさ、若いころって言った言わないあったなかったですぐケンカするじゃん。私は負けず嫌いなので、モメそうなことは結構記録してたの。いざケンカになるとそれを出すわけ。でもさ、こういう風にケンカに勝ってもいいことないんだよね。記録出されると相手はぐうの音も出ないからまあ勝つんだけど、そういう風にやりこめられた人ってかえって不機嫌になるじゃん。でもそれって求めてたことじゃないんだよね、私としては。自分が正しかったと認められて、その上で関係が元に戻るのを期待するわけでしょ。だから相手を不機嫌にしたまま勝ってもそれは負け。それで、ある時期から色々記録するのはやめた。自分の記憶も全然当てにしないことにして、私には私の不確かな記憶しかない、アンタにもアンタの不確かな記憶しかない、真実はわからないので痛み分けでこの話はおしまい! ってやるようになった。まあこれ言うとそれはそれで相手は怒るんだけどさ。ケンカはしないほうがいいよ。
次、これは私が長子だってことに関係してんだけど、昔実家を立て直すってモノ整理したとき、自分ら兄弟の子供時代の古いアルバムがいくつか出てきた。ただ、自分のアルバムと弟たちのやつで信じられないくらい厚さが違うの。自分のが3倍くらいある。なんとなくわかると思うけど、両親も初めての子供ってかわいいからパシャパシャパシャパシャ写真撮るのよね。写ルンですとかでね。でも二人目からは目新しさがないからそんなことしないわけ。これに気づいたときは心底イヤな気持ちになって、アルバム全部燃やしてやろうかと思ったよ。別に写真の枚数で愛が測れるなんて思っちゃいないけどさ。記録って全然公平中立じゃなくて、みんな自分が関心あることしか記録しない。でも一度記録されなかった側の気持ちになったら、あとは全部記録するか何も記録しないかの二択じゃん。全部記録するなんてできないから、実質一択。
最後三つ目、これはウンと高尚な話! ニーチェっていう哲学者いるでしょ。神は死んだってヤツ。あの人に『ツァラトゥストラ』っていう本があって、あれ読んだときすごい印象に残った節がある。これ。
時は戻らない。それが意志をいらだたせる。「そうであった」ーーそれこそ意志が転がせぬ石
哲学者の言うことは難しくてよくわかんないんだけど、多分ニーチェって人はあれするぞこれするぞっていう意志をもっともっと自由にしたくて、その足枷になるものをどんどん告発していくわけ。それで一番の足枷が過去なんだよね。もう起こっちゃったことは、今さらどうこうしようとしてもどうにもならないから。それはそうだ。じゃあどうしますかって、忘れるしかないよね。忘却。忘却だけが本当に意志を自由にする。だから「超人」のモデルって赤ちゃんなの。赤ちゃんはなんもおぼえてないから。今だけを生きてて、自由。痺れるね。過去のことを憶えているときって、もうできあがっちゃった品物が目の前に並んでて、じゃあ今からこれを使って何かしますかって感じ。悪くはないけど窮屈だ。でも記憶がおぼろげなら、そこにあるのは粘土。土の癖はあるけど、それをどういう形にするかは今の自分次第だ。さっきの話もそうで、ケンカが云々アルバムが云々ってなんとなくそういう記憶があるだけで、それを今解釈して記録嫌いの話にしてんの。昔からずっとそう思ってたなんて記録はございません。でもそれがないからこそこういう風に書くことができて、私はその自由を愛しているのです。
そういえば、日記書かない写真取らない記録しない、みたいな話を他人にすると、
「その瞬間その瞬間に感じたことを大切にするタイプなんですね」
みたいなことよく言われんだけど、ため息が出てしまう。その瞬間の感覚にこだわるのは、何か確かなものがほしい人の態度だ。で、その時その時の気持ちが確かで、後からの気持ちは確かじゃないんだって。全然わかんない。昔どうでもよかったことの意味に後から気づくみたいな体験ってよくあると思うけど、それって「嘘」とか「不誠実」なのかしらん。ともかく、私は確かなものはいらなくて、不確かなものだけがほしい。今、自分の過去を何度でも何度でも新しく解釈したくて、その時に記録は邪魔なのだ。
そうそう、もしかしたら記事タイトルで気づいた人がいたかもだけど、最初の2段落は内田春菊の『私の部屋に水がある理由』からの引用。内田の話をしたことはあんまりないけど、自分にとって大切な作家の一人だ。ついでに4段落目で母親のことハハって書いてるのはだいぶ昔からだけど冬目景の影響。ハルちゃん。エッセイみたいなの書くときはこうやって随所で引用をカマして文章を縛って、自分の思考をそのまま記録しないようにしてんの。小癪だね。
連作ホラー短編アニメ『ななし怪談』各話レビュー(後編)
はじめに
夏休みといえば怪談! 今夏弊ブログでは、「おはスタ」内で放送の新作怪談ショートアニメ『ななし怪談』に注目しています。
誰も知らない。知られてはならない…………それが「ななし怪談」ですが、この記事では各怪談の感想をインターネットで全世界に公開してやりますよ。今回は後半5話のレビューをしていきます。前編はこちらです。では、早速見ていきましょう。
【目次】
ななし06「あがり蟲」
あらすじ
- 梵(ぼん)、茲(ここ)と一緒に授業の課題に取り組むキッズ。とても熱心に取り組んでいたため、みんなの前での発表はキッズに任されました。ところがキッズは人前ではあがってしまう性格で……
登場怪異
- 不安を食べて大きくなる怪異 あがり蟲
評価
- 恐怖:☆☆☆
- 教訓:☆☆☆
- 萌え:★★★
かなりの異色回です。緊張していたら緊張を食う怪異に取り憑かれた、という話はまったく因果応報的ではありません。緊張することが道義的に悪いと考える人は流石にいませんからね。むしろ緊張はいいことです。緊張は成功を願う気持ちの裏返しってひいひいおじいさまも言っていたそうですよ。また怪異もデザイン・演出両面で怖くなく、果たして今話を怪談と認めていいのか怪しいレベルです。
ただし、別の点では大きな魅力があります。まず全体的な雰囲気はかなりコミカルで、正面から視聴者を笑わせにくる場面もあります。「おもしろ」の基準を立てていたら間違いなく★3でしょう。関連して「萌え」は文句なしに★3です。話の展開上、梵(ぼん)と茲(ここ)が常に画面に出続けており、自由研究に取り組む小学生らしい姿を見ることもできます。そして、不安がる友人を勇気づけようとする二人の姿も大変ほほえましいものです。とくに自由研究に熱心すぎる早口オタクキッズを見つめる梵(ぼん)の優しい瞳には要注目!
二人の応援によってキッズは緊張を克服することができたため、この回ははじめて怪異を退治しない回になりました。「友達からの応援があれば怪異を克服できる」という話の流れは、今回の評価基準とは別の意味で教訓的ですね。さらに、「除霊するより自然に追い払ったほういい」と梵(ぼん)がほのめかしたり、怪異を退治する際に「怪異採集帳」を使っていることが公にされるなど、本作の設定に迫る側面もあります。加えて、無患子さんのまとめの言葉が怪異側に立っているような……? 総じて、怖くはないのですが非常に印象深い一話になったと言えます。
ななし07「マギラ」
あらすじ
- いたずら好きなキッズ。タッチペンと箸、タイヤと消しゴムなど、「紛らわしいものを入れ替える」いたずらを繰り返します。しかしそのうちに自分自身でも色々なものを取り違えるようになっていき……
登場怪異
- いたずら好きの子にとりつく怪異 マギラ
評価
- 恐怖:★☆☆
- 教訓:★★★
- 萌え:★★☆
とてもバランスが良い回ですが、もう一歩という印象もあります。「教訓」は文句なく★3でしょう。キッズには最初から怪異が取り憑いているようなのですが、元からいたずらっ子だったことは容易に察せられます。また、紛らわしいものを入れ替えるいたずらを繰り返した結果、自分自身が母親と怪異を間違えてしまう、という顛末も悪行と怪異の内容に調和があります。ただ、教訓譚はつまらない説教と紙一重です。今話はキッズの反省の言葉が長めで、物語をまとめる無患子さんのコメントも含めると、説教臭さが否めなくなっています。説教せず教化するのが子供向け怪談の美点なのでこれは残念です。
「恐怖」については、母親と怪異を取り違えるシーンは意外性があり恐ろしく感じました。ただ、怪異の造形がファンシーなため絵的な怖さがなく、悩んだのですが★2寄りの★1となってしまいました。前話に引き続きですが、こういう丸っこい怪異のデザインはポスト『妖怪ウォッチ』時代という感がありますね。「萌え」については逆に★3寄りの★2です。茲(ここ)が怪異をキックする絵がこれまでで一番キマっていて素晴らしく、梵(ぼん)と茲(ここ)が学級会を主導するシーンも嬉しい! ただ全体的にキッズメインの回だったため、梵(ぼん)と茲(ここ)の登場場面がやや少なかったのが惜しいです。
ななし08「時喰い」
あらすじ
- 何時間もビデオゲームに熱中するキッズ。ところが、ハッと気がつくとゲームを全てクリアしてしまっており、楽しかったプレイ時間の記憶がまったく残っていません。後日、遊びに来た梵(ぼん)と茲(ここ)の前で改めてゲームをプレイしてみると……
登場怪異
- 時空を食べる怪異 時喰い
評価
- 恐怖:☆☆☆
- 教訓:★☆☆
- 萌え:★★★★
この回の感想をうまく表現するのが難しく、5日間も頭を抱えてしまいました。「恐怖」については話は簡単で、6話と同じく怪奇自体の怖さはほぼありません。ただし、今話は6話とは違って比較的怪談らしい雰囲気を残しています。その原因は、「時空を食べる」という怪異の摩訶不思議な性質によるものでしょう。怪談には恐怖系怪談だけではなく不思議系怪談もありますからね。
悩ましいのは「教訓」です。怪異「時喰い」は、「楽しいことに夢中になりすぎた」人に取り憑き、楽しかった時間を食べてしまいます。このために、時間を守らずゲームに熱中しすぎたキッズの記憶がなくなってしまったのですね。自分はこの話の教訓性について、大小2つの違和感をおぼえています。小さい違和感は、「ゲームやりすぎ=悪」という価値観にはちょっと乗れないということです。とはいえこの風潮は根強いですから、この点はまあいいのです。それより大きな、より一般的な違和感は、この話は子供に「楽しむな」というメッセージを発してしまうかもしれないなぁということです。楽しみをほどほどにしておく、つまり「節制」はたしかに重要な徳です。この徳を欠くと、アニメを見すぎて労働に支障が出る私のような存在が生まれてしまいます。ですが、節制はやるべきことを多く課せられた哀れな大人のための徳であって、子供は好きなだけ楽しめばいいのではないでしょうか。この話を見たキッズたちが、時喰いに怯えるあまり、目一杯楽しむことをあきらめないことを祈っています。
小難しいことを言っておいてなんですが、この回の「萌え」はマジで最高です。茲(ここ)の小ボケに対する梵(ぼん)のツッコミという会話の楽しさが光っています。特に、キッズ宅に訪問するやいなや即お菓子を要求する傍若無人な茲(ここ)と、それを珍しく強い語気でたしなめる梵(ぼん)(ここの青山さんのボイス、1000点です)のやりとりには思わず声が出ました。当初は特例の★5としていたのですが、「梵(ぼん)と茲(ここ)が自宅に遊びに来る」というシチュエーションがあまりにも羨ましすぎたので一つ減らして★4です(妬み)。キッズはゲームやりすぎ罪じゃなくて「梵(ぼん)と茲(ここ)が自宅に遊びに来た罪」で怪異に取り憑かれるべきだろ。
ななし09「紐ほどき」
あらすじ
- キッズたちの靴ひもが一斉にほどける事件が発生。結び目をほどく怪異の仕業だとすぐに判明します。見た目もかわいく害も小さそうなこの怪異をキッズは放っておくことにするのですが、その間に怪異の力はどんどん増していって……
登場怪異
- 結んであるものをほどいてしまう怪異 紐ほどき
評価
- 恐怖:☆☆☆
- 教訓:★★★
- 萌え:★★★
- サムネ:−★★★★★★★★★★
パターン外しが気持ちいい一話です。いつもは怪異に厳しい梵(ぼん)が判断を誤るという珍しいシーンを見ることができます。きちんと謝れてえらいね。茲(ここ)はやや出番が控えめですがキッズ救出シーンもかっこよく、「萌え」は★3でしょう。「教訓」についても、「見た目に騙されて脅威を見逃してはいけない」というメッセージが明確にストーリーに反映されています。本編では「登り紐からの落下」という大事故になりかけてはじめて危険性に気づく展開でしたが、実際は靴ひもがほどけるだけでも大事故につながるんだぞと無患子さんがきちんと補足しているのも丁寧です。
難しいのが「恐怖」です。かわいい系の怪異ではありますが、「次にどんな結び目がほどかれ、どんな被害が出るかわからない」という不安感を煽る話作りの工夫があります。ただ、「体育館の登り綱がほどかれる」という肝心のオチをサムネで初手からネタバレしており、Youtube視聴勢としては残念ながらまったく恐ろしく感じませんでした。「おはスタ」で見ていたら印象が違っていたかもしれません。なおこのサムネイル、ネタバレなのを置いておいても、Youtube特有のクソ煽りサムネのお手本みたいな作りになっており、徳がなさすぎるのでマイナス10点です。良い子はこういうサムネをつくってはいけない。

ななし10「ふたりの茲」
あらすじ
- 自然の家に宿泊学習に来た梵(ぼん)と茲(ここ)たち。ですが、茲の様子がおかしいことに梵は気づきます。普段より優しい茲に困惑しながらも悪くない気持ちでいる梵でしたが、茲は怪異を倒すのはもうやめようと言い出して……
登場怪異
- ???
評価
- 恐怖:★☆☆
- 教訓:☆☆☆
- 萌え:★★★★★
今回は怪異が正体不明で、演出面が若干不気味ですが教訓譚でもありません(あえて言えば、そのままの姿の友達を認めることが大切、という話ではあります)。ですがそんなことはどうでもよくて、今回の見所は何といっても梵の心の動きです。普段は無頓着でマイペースすぎる茲が、急に優しい少年になっている。それに戸惑いつつも、どこか嬉しい気持ちもある……そんな梵の複雑な思いを丁寧に描きながら、二人の茲のどちらを選ぶかの葛藤をクライマックスに持ってくる。ストーリーの見事さに加え、それをわずかな尺の中で説得力をもって見せきった構成も素晴らしいです。「萌え」は天井を余裕で突破して★5としました。舞台が日常から離れたことで二人の服のパターンが変わったのも嬉しい!

最終回にふさわしく梵と茲に注目する回でしたが、結局二人の目的や正体はまったく語られないまま終わりました。無患子さんパートはいつもとは少し異なり、今回の怪異と無患子さんに何か繋がりがありそうだとほのめかされてはいますが、その真意はやはり不明です。とにかく核心に踏み込むようで踏み込まない、謎だけが残る一話となりました…………これで最終回なの!? あと42話くらい見せてください! お願いします!!
おわりに
ということで、「ななし怪談」後半5話のレビューを終えます。後半は恐怖という点では控えめでしたが、前半で作られたパターンを微妙に外して話に様々なヴァリエーションをもたせて視聴者を飽きさせず、また梵(ぼん)と茲(ここ)のタッグの魅力もますます豊かに描かれていたと感じます。
全体として、個性豊かな10の怪談が語られたとても楽しいアニメーションでした。しかしベスト・エピソードを挙げろと言われれば、文句なしに5話「マゼテ」です。夕暮れの不気味な雰囲気と怪異が正体を表したときの恐怖は未だに深く心に残っています。怖かったね……私も門限を守って生活したいところですが、弊社はあまり定時を守らせてくれないため、せめてマゼテに声をかけられても返事を返さないよう、十分注意したいと思います。
あまりにも多くの謎を残したまま終わってしまった本作ですが、明日8月24日にはイベントもあるようです。さらなる展開を期待していいのかもしれません。梵と茲にまたいつか会えるといいね。
さて、誰も知らない、知られてはならない、それが「ななし怪談」です。だからこのブログも僕たちだけの秘密です。約束ですよ?
連作ホラー短編アニメ『ななし怪談』各話レビュー(前編)
はじめに
夏休みといえば怪談! 私柑橘類もキッズの頃はアニメ「学校の怪談」など怪談コンテンツをよく見ていました(あのアニメEDが微妙にセクシー路線だったのなんだったんですか?)。自分はいわゆる霊感があるタイプではなく、キッズのころ祖母の家の廊下で柑橘祖父(故人)を見たくらいなのですが、日常的に心霊現象を体験する人にとっては怪談話も労働の会議くらいありふれていてどうでもいいはずです。霊感がない人ほど怪談コンテンツを楽しめるんですね。
令和でも子供向け夏休み怪談は健在。今年の8月は「おはスタ」内で新作怪談ショートアニメ『ななし怪談』が放送されています(おはスタ公式Youtubeでも放送日の7:30から公開されています)。
作品の舞台は小学校。どこにでもある小学校生活のなかで、様々な「怪異」が子どもたちを襲います。怪異を鎮める謎めいたバディ、梵(ぼん)と茲(ここ)の活躍にも注目です。作品の作りとしては、アニメと紙芝居の中間のような特徴をもっています。全10話が予定されており、本日8月12日の時点では前半が終了、ここまで5話の怪談が語られました。
誰も知らない。知られてはならない…………それが「ななし怪談」ですが、この記事では各怪談の感想をインターネットで全世界に公開してやりますよ。
【目次】
評価基準
今回はレビューにあたって3つの評価基準を用意してみました。「恐怖」・「教訓」・「萌え」の3つ、各3点満点です。
恐怖
やっぱり怪談は怖くなくてはいけません。「恐怖」の基準ではどのくらい「こわ〜」と感じたかを評価します。
教訓
メタ的な視点になりますが、多くの子供向け怪談コンテンツは非常に教育的なコンテンツでもあります。たいてい、「やってはいけないこと」に手を出した子どもたちが心霊現象の犠牲になるという因果応報の構図があり、それを見たキッズたちは「悪いことせんとこ……」と思うわけですね。そこでこの「教訓」の基準では、「怪異が悪いことに対する罰として描かれているか」、「怪異の内容がやってしまった悪いことの内容とリンクしているか」といった点に注目します。
ななし01「グラフティ」
あらすじ
- 居残りになったのに落書きばかりしていたキッズが、絵を現実化する怪異に捕まってしまいます。怪異の能力を使って居残りを命じた先生に仕返しをするキッズ。だが仕返しの内容はどんどんエスカレートしていき……
登場怪異
- らくがき怪異 グラフティ
評価
- 恐怖:★☆☆
- 教訓:★☆☆
- 萌え:★☆☆
記念すべき第一回ですが、3基準どれも低調になってしまいました。話の流れ上、怪異がどのタイミングで実体化するか完全にわかってしまい、これは「恐怖」の点では大きなマイナスになってしまいます。「教訓」についても、「落書きをしても、落書きの呼び声に返事をしなければセーフ」ということになっており、因果応報性はやや低めです。また茲(ここ)の出番がほぼないのも残念です。ただし、このあたりは1話ということで仕方ない部分もありますね。梵(ぼん)は最初からフルスロットルでかわいいです。
ななし02「ジャンぽん」
あらすじ
- じゃんけんが弱く辛い目にばかりあっているキッズ。強くなりたいという思いを怪異につけこまれてしまいます。怪異の力でじゃんけん無敗になったキッズは、すべてをじゃんけんで決めようとして周囲から孤立していき……
登場怪異
- じゃんけん怪異 ジャンぽん
評価
- 恐怖:★★☆
- 教訓:★★☆
- 萌え:★★☆
小学校では成績と足の速さ以外はすべてじゃんけんで決まるので、じゃんけんで強くなりたいという気持ちを利用されるという話はリアルです。じゃんけんで勝ちたいという思い自体は不純ではないですが、怪異の力に溺れていく点はキッズさんサイドにも問題があり、しっかり因果応報的です。また「自分がされて嫌なことほど、人にしてはいけないよ」というまとめの言葉通り、この話は倫理の基本である黄金率を説く話でもあります。真の問題はじゃんけんという名のもとでむやみに格差を拡大させる制度自体にあり、その制度の中で成り上がろうとするのではなく、制度自体を破壊するべきなのです。まずは先生に相談しましょう。
今話は怪異によって人の精神が変質していくサイコホラーの要素が強く、周囲の人の反応も含めてその恐怖を十分に描いています。また「萌え」についても、茲(ここ)が負けず嫌いな面を見せたり、じゃんけん無敵怪異を「便利そう」とマイペースに評していたりと、かわいらしい一面が垣間見えて好感触です。梵(ぼん)はもちろんかわいいです。
ななし03「十隠」
あらすじ
- 苦手なニンジンが給食に出たので机に隠してしまったキッズ。するとニンジンは跡形もなく消えてしまいます。それをきっかけに次々と都合の悪いものを隠していくキッズでしたが、それが10回目に達すると…….
登場怪異
- 机で育つ怪異 十隠(とおかくし)
評価
- 恐怖:☆☆☆
- 教訓:★★★
- 萌え:★☆☆
この回は「教訓」の点で非常にすぐれています。苦手な食べ物だけでなく、点数の悪かったテストや宿題など、自分に都合の悪いものを次々と机に隠していった結果、最後は自分自身が机に飲み込まれてしまうというストーリーは、悪行と怪異の内容が完全に調和しています。「隠しごとはたとえ人間にバレなくても怪異にはバレる」というまとめかたも、お天道様が見ているという倫理の一丁目一番地です。実際のところ給食を残すことは別に悪行ではないですが、その点を差し置いても★3に値する素晴らしい教訓譚でした。
他方、この回はコミカルな色彩も強く、怪異も恐怖を煽る演出は控えめですぐ退治されてしまうため、「恐怖」は低くなってしまいました。また茲(ここ)の出番が一話よりもさらに少ないため、怒りの「萌え」★0もありえましたが、梵(ぼん)の友達思いなやさしい面が良く出ていてかわいかったので★1としました。
ななし04「喪チヌシ」
あらすじ
- トイレで落とし物のヘアピンを見つけたキッズ。可愛いデザインが気に入り、あとで先生に届けると言いつつも自分で使い続けてしまう。だがヘアピンをつけたままトイレに戻ると……
登場怪異
- 落とし物怪異 喪チヌシ
評価
- 恐怖:★★★
- 教訓:★★☆
- 萌え:★★★
ホラーの基本に忠実に作られている回です。これまでの話と比較しても導入部分は短くすませ、キッズがトイレの中をさまよう緊迫感あるシーンに尺が長めに振られています。怪異登場シーンもジャンプスケアになっていて効果抜群で、自分自身も初見時はビビりました。古典的な演出ゆえに若干チープさも感じますが、流石に「恐怖」は★3でしょう。落とし物を返さなかったキッズが落とし物に未練がある怪異に襲われるという筋はきちんと因果応報的でもあります。また、主な舞台が女子トイレのため、茲(ここ)が中に入れないと恥じらう一幕があり、「萌え」ポイントは爆上げです。緊急時なのでそんなこと言っている場合ではないのですが、トイレに入れないなりに機転を利かせて問題を解決する知的な側面が見れたのも嬉しいところ。梵(ぼん)はもちろん通常営業でかわいいです。
このように本話は今回の3基準ではかなりの高評価になっています。ただ、導入を短くした副作用で話がめちゃくちゃ単純なのと、怪異の造形がモンスター的で格闘シーンがあることなどもあって、怪談的な怪しい魅力には欠けています。このため全体的に見れば、自分としてはあまり印象深い回ではありませんでした。人によって大きく評価が分かれそうです。
ななし05「マゼテ」
あらすじ
- 公園でサッカーに興じるキッズたち。もう夕方だが一向に家に帰る気配はない。そこに知らないキッズが現れ、サッカーに混ぜてくれという。新たなキッズを迎えてさらに遊び続けるキッズたちだが、陽がとっぷり暮れるとそこには……
登場怪異
- マゼテ(※怪異称号なし)
評価
- 恐怖:★★★★
- 教訓:★☆☆
- 萌え:★★★
前半5話の中で最も完成度が高い回だと感じます。とくに素晴らしいのが恐怖表現です。怪異が真の姿を現すシーンは前回に引き続きジャンプスケアを効果的に取り入れており、さらに今回はキッズが複数登場するため、「一人が既に怪異の犠牲になっている」という恐ろしい絵を見せることができています。同じく恐怖表現に優れた4話には「怪談的魅力が欠ける」という短所がありましたが、5話はこの欠点を払拭しています。まずサッカーに混ざろうとする怪異(キッズの姿)の絵的な怪しさは出色ですし、夕暮れの公園の不気味な雰囲気もいい感じです。さらに、怪異の設定に「混ぜる」という日本語の多義性を利用するというアイデアが盛り込まれており、これは世界に誇る日本のKaidanにふさわしいものです。破格ですが「恐怖」は★4としました。
また今話は茲(ここ)の活躍が多く、「萌え」も高評価です。冒頭から、キッズたちに混ざってサッカーを楽しむ無邪気なシーンがあり笑顔になります。また除霊シーンにおける茲(ここ)の基本的な役割は怪異と戦うことなのですが、今回は「怪異に飲み込まれたキッズを救出する」というこれまでにないカッコいい姿を見ることができて悶えました。逆に梵(ぼん)のほうの存在感が薄く、★を一つ減らそうかとも思ったのですが、私は茲(ここ)くんのファンなので★3キープです。
唯一「教訓」の基準は低めです。「遅くまで遊んでいても、怪異を遊びに混ぜなければセーフ」という理屈になっていて因果応報性が低いの一点。もう一つ重要なのは、明らかに怪しいヨソモノの怪異をサッカーに混ぜてくれるキッズは非常に徳が高いため、遅くまで遊んでいるとはいえ怪異の犠牲者となるべき人物には見えません。しかしこの点はあまり気にならないほど、全体的に素晴らしい一話だったと思います。
おわりに
以上が『ななし怪談』前半5話のレビューです。改めて振り返ると、小学生の日常生活と怪奇現象をうまくからめつつ、さまざまなパターンの怪談が語られていることに気づきます。後半のさらなる展開にも期待が持てますね! もう一つ楽しみな点ですが、前半ではこの作品に秘められているはずの様々な設定がまったく深堀りされませんでした。梵(ぼん)と茲(ここ)のバディは怪異を鎮めていることだけはわかるのですが、2人のバックグラウンドはまったく不明です。怪異とは何なのか、それもわかりません。またナレーターを務める無患子さんは一体何者なのでしょうか。
謎が深まるばかりの本作『ななし怪談』、後半からも目が話せません。さらなる恐怖と教訓と萌えを待ちつつ、本レビューも後編に続きます。繰り返しますが、誰も知らない、知られてはならない、それが「ななし怪談」です。だからこのブログも僕たちだけの秘密です。約束ですよ?
- 後編はこちら
恐るべき独占企業としてのタコ:『MUTEKING』とタコの2つのイメージ
はじめに
(「ステキングのテーマ」が流れ始める)

突然ですが、2021年秋クールに放送され、全
animestore.docomo.ne.jp
さて、昨年末〜今年頭は『MUTEKING』の見過ぎで生活が完全に破壊されてしまったのですが、その果てに生まれたエッセイを以下に公開します。タコが西欧でどのようにイメージされてきたか、またそうしたイメージと『MUTEKING』がどう関係しているかを調べて書いた一本です。『MUTEKING』にあまり関心がない人も(そんな人いる?)、タコやサンフランシスコに関心がある場合は(そんな人いる?)それなりに面白く読めるのではないかと思います。
なおこのエッセイはもともと、同人誌『WE LOVE MY HERO!!!』(ゆづる/#7FBEEBの海 2022)に寄稿したものです。Web公開にあたり加筆修正し、また私の責任で画像を追加しています。書いたものがインターネット上に公開されていないと気がすまない何でもインターネット果実人間のわがままを受け入れ、比較的早い段階でのweb公開を快く許してくださった、上記同人誌主催のゆづるさんに感謝いたします。
恐るべき独占企業としてのタコ
- お前は生物というより仮面である ——ミシュレ『海』
タコ! それはアニメ『MUTEKING』を妖しくも美しく彩るイメージだ。タコ(octopus)と墨(ink)から名前をとっている巨大企業「オクティンク」(OctinQ)を筆頭に、作品にまつわるモノ、コト、その多くにタコにまつわる要素がからみついている。作品全体に散りばめられたタコ要素は、一方では世界観を統一する役割をはたすと同時に、他方では隠されたタコを探しだす楽しみを私たちにあたえてくれる。
タコにあふれる世界を支えているのが「オクティアン」という設定だ。オクティアンとはタコ型の宇宙人で、オクティンク社のCEOであるセオをはじめ、登場人物の多くがこの宇宙人だったことが作品終盤で明かされる。タコ型宇宙人をフィーチャーしているからこそのタコ要素なのだ。
タコ型の宇宙人は創作ではおなじみのイメージだ。もちろん『MUTEKING』はこの設定を、初代『とんでも戦士 ムテキング』(1980–1981)から直接受け継いだ。しかしさらに遡れば、このイメージは19世紀の小説、H. G. ウェルズの『宇宙戦争』(1898)にまで行きつく。100年以上続くタコ型宇宙人の伝統、その令和最新版が、セオたちオクティアンだ。
だが、セオやオクティンク社を、タコにかんする別のイメージの伝統のなかに置くこともできる。セオは宇宙人であると同時に実業家であり、オクティンク社は宇宙人の侵略拠点であると同時に巨大独占企業だ。そして実はタコには、やはり19世紀以来、恐るべき独占企業の象徴として描かれてきた歴史がある。さらにこのイメージは、米国カリフォルニア州サンフランシスコ、つまり『MUTEKING』の舞台であるネオ・サンフランシスコのモデルとなった街と、偶然にも深い縁がある。
「宇宙人としてのタコ」と「独占企業としてのタコ」——共に19世紀に生まれた2つのタコ・イメージの交差点に、今、『MUTEKING』が立っている。このエッセイでは『MUTEKING』をさらに楽しむために、「独占企業としてのタコ」の歴史を簡単に振りかえってみたい。実在の人々を脅かしてきた巨大な「タコ」について知るとき、私たちはネオ・サンフランシスコを脅かすオクティンク社の恐怖をさらに深くあじわうことになるだろう……
悪魔の魚?
タコは英語では「悪魔の魚」(devil fish)と呼ばれ西欧では昔から恐れられてきた——という話を耳にしたことがある人は少なくないと思う。だが、これは偽の歴史である。
元々、沿岸部以外のヨーロッパの人々は、日常生活のなかで実物のタコに接する機会があまりなかった。沿岸部の人々はそれなりにタコに親しんでいたが、様々な伝説や迷信の影響もあり、タコの生態は詳しくは知られていなかった。イメージの話としては、たしかに好色、狡猾、怠惰、醜悪といったネガティヴな要素と結びつけられることもあったが、他方では慎重さや分別といったポジティヴな要素と結びつけられることもあったし、聖なるものとして捉えられることもあった。そしてなにより重要なことだが、タコが恐怖の対象となり恐れられる、ということはほとんどなかった(Caillois 1973[2019])。

恐怖の創造
悪魔のごとき恐るべきタコ——そのイメージは19世紀になって、1冊の小説によって突如として生まれた。その1冊とは、『レ・ミゼラブル』で知られるフランスの小説家ヴィクトル・ユゴーが1866年に発表した、『海に働く人びと』(『海の労働者』)だ。この小説には主人公が洞窟でタコと戦う場面があり、そこでタコは、サタンに相当する恐るべき存在として描かれている。その描写の徹底ぶりたるや、小説の本筋から離れ、タコがいかに恐ろしいかを説くためだけの1節があるほどだ。
タコを悪魔化するために、ユゴーは特に吸盤に注目している。人間が吸盤からタコに飲みこまれ、混ざり合うというイメージによって恐怖心を煽ろうとするのだ。
爪、それは動物があなたの肉のなかにはいってくるのであり、吸盤、それはあなた自身が動物のなかにはいっていくのだ。あなたの筋肉はふくれあがり、神経線維はよじれ、皮膚はけがらわしい押しつけのもとに裂け、血はほとばしり出て、恐ろしくも軟体動物のリンパ液と混り合うのである。〔……〕トラはあなたを貪り食べることしかできない、がタコは、身の毛もよだつ! あなたを吸い込むのだ。タコはあなたを自分のほうへ、自分のなかへ引きつける。そしてあなたは縛られ、粘らされ、無力になって、怪物たるその恐るべき袋の中で、ゆっくりと空っぽにされていくのを感じるのである。
生きながら食べられる、その恐怖をこえて、生きながら飲まれることには、説明できないものがある。(Hugo 1866[1878], 一七六–一七七頁)
ユゴーの描くこの恐怖のなかに、『MUTEKING』ファンなら、人をとりこみ黒墨化するオクティンク社の恐怖の遠い先祖を見つけるだろう。そしてさらに注目すべき点がある。ユゴーは、タコが吸盤を自由自在にあやつることに着目し、これをピアニストがあやつる鍵盤になぞらえるのだ(一七三頁)。鍵盤で人を飲みこみ溶かすタコ——もしかしてユゴーは『MUTEKING』を見ていた……?
ともあれ、当たり前だが、実際のタコにこのような恐るべき力はない。事実というより豊かな想像力によって、一夜にしてタコは悪魔となったのだ(タコは英語で「悪魔の魚」と呼ばれていると言いだしたのもユゴーらしい)。『海に働く人びと』は飛ぶように売れ、恐るべきタコのイメージも瞬く間に広まっていった。

タコ、サンフランシスコへ
恐怖のタコはすぐに大西洋を渡りサンフランシスコにも到着した。そのイメージの広がりを、主に地元紙の調査から追跡した研究がある(Stangl 2016)。これによると、「悪魔の魚」という単語が紙上に初めて登場するのは1867年1月10日、イタリア料理店にタコの死骸が吊るされていると報じた記事だ。記事はユゴーを引用しつつ、「〔タコの〕姿を見ていると、穢らわしい怪物の冷たく湿った触手が喉を締めつける思いがする」としている。
タコが恐ろしい存在になると同時に、逆に、恐ろしい存在がタコとしてイメージされるようになった。同年1月28日の記事では、人を経済的に苦しめる米国首都ワシントンD.C.が早速タコとして描かれている。これ以降、さまざまな恐るべきモノ、コトが続々とタコ扱いされはじめる。独占企業、政府、政党、政治家、買い物客、宗教団体、地元書店を脅かすデパート、教会を脅かすビジネス活動、マラリア……(Stangl 2016, p. 351)。
ここでようやくタコと独占企業のつながりが見えてきた。しかしその話に移る前にもう一つ見逃せないのが、『MUTEKING』では活気ある「ドラゴンストリート」として描かれた「中華街」が執拗にタコ扱いされていた事実だ。中華街はゴールドラッシュ以来サンフランシスコと共にあったが、1860年代後半頃から人口的にも面積的にもまた産業的にも大きく発展しており、サンフランシスコ市民にはこれを脅威だと捉える人々もいた。地元紙には「中華ダコ」、「モンゴリアン・オクトパスが街に触手を伸ばし締めつける」などの見出しが踊った(Choy 2012, pp. 29–35; Stangl 2016, pp. 354–355)。
中華街が執拗にタコ扱いされた理由のひとつは、明らかに、アジアの人々に対する偏見だった。だが同時に、「街の一部の区画が徐々に勢力を拡大している」という事態は、タコが触手を伸ばすイメージとぴたりとハマっていると言わざるを得ない。『MUTEKING』のネオ・サンフランシスコでも、オクティンク社の影響を受け暗黒化した区画が徐々にその勢力を拡大していく。その様子は、触手を伸ばす恐るべきタコに重なるのだ。
サザン・パシフィック鉄道
独占企業の話に入ろう。サンフランシスコで特に激しくタコ扱いされた企業、それが巨大鉄道会社サザン・パシフィック鉄道だった。この会社は、カリフォルニアで鉄道輸送にまつわるあらゆる富と権力を独占していた。鉄道事業には税金が投入されていたこともあり、独占に対する人々の反発は非常に強かった。とくに、鉄道敷設のために土地を囲いこまれた農民たちは、長年にわたりこの鉄道会社と衝突を繰りかえしていた(Brown 1991, Chap. 3)。
農民たちと鉄道の争いは、アメリカン・ドリームの矛盾そのものだった。自ら耕した土地で家族や仲間とともに農園を営み独立した生活をおくる、それは広大な「フロンティア」を抱えたアメリカの約束だった。しかしその一方で、自らの才覚一本で勇敢に市場経済に飛び込み莫大な富を築き上げること、それもまた、アメリカの夢のひとつのカタチだった。
サザン・パシフィック鉄道は1879年から地元紙でタコ扱いされはじめる(Stangl 2016, p. 357)。そのなかから出てきた有名な風刺画が、1882年に描かれた「カリフォルニアの災い」だ。この絵では、「RAILROAD MONOPOLY」(鉄道独占)の文字が刻まれた巨大なタコが、農民や船(海運業)、またドル袋を触手で捉えている。ほとんど説明不要のインパクトをもつ一枚だ。

フランク・ノリスの『オクトパス』
この事件をモデルに、カリフォルニアでの農民と鉄道の争いを描いた小説がある。タイトルをずばり『オクトパス』。1901年に発表されたこの小説は、「独占企業としてのタコ」のイメージを決定的なものにした。著者のフランク・ノリスは主にサンフランシスコで活動した人物で、短い生涯のなかでこの街やカリフォルニアを舞台とする物語をいくつも残している。
『オクトパス』が本文で「オクトパス」という言葉を使っている箇所は実は2つしかない。1箇所目は、さあ物語が幕を開けるぞという第1章の末尾、そして2箇所目は、すべてが終わってから物語全体を振り返る最終章だ。ここからもわかるように、この言葉はここぞという時を選んで使われており、それだけに読者の印象にも深く残る。ここでは、第一章の方の使用例を具体的に見てみよう。そこで主人公のプレスリーは、農場の羊たちを残酷にも轢き殺していった機関車のことを思い出している。
突如プレスリーは、今度は想像のなかで、あの駆け抜ける怪物を見た。地平から地平へ飛び回る、赤い一つ目の、鉄と蒸気の怪物。それは今や、あらゆる谷間に雷鳴を轟かせ、行くところ血と破壊をもたらす恐ろしい巨大な力の象徴に見えた。大地をつかむ鉄の触手の化物、魂なき力、鉄の心臓を持つ動力、怪物、巨像、オクトパス。(Norris 1901, p. 48)
この強大なオクトパスとの戦いが、今後小説の中で描かれていくことになる。その戦いの行方はみなさん自身に目撃してもらうとして(邦訳もあります)、ここで注目したいのは、今の引用でタコ扱いされているのは、鉄道会社というよりも、むしろ鉄道そのものだという点だ。カリフォルニアの広大な大地に、線路という「鉄の触手」を伸ばすタコ——ここで私たちは、鉄道会社が激しくタコ扱いされたのは決して偶然ではなかったと気づく。鉄道網の拡大は、触手を伸ばすタコの姿そのものだ。独占企業の勢力拡大は、線路の拡張という具体的なモノと結びつき、本当にタコの姿になっていた。

こうしてサンフランシスコの地で、「独占企業としてのタコ」というイメージが確立した。そしてそのイメージは今日でも生き続けている。もしそのタコの姿を捉えたいなら、適当な巨大企業を選んで、「Octopus」(タコ)、「Monopoly」(独占)などのキーワードと一緒に画像検索をかけるだけでいい。恐ろしい触手をのばす現代企業の風刺画をすぐに見つけることができるはずだ。
地球を飲みこむタコ
「独占企業としてのタコ」というイメージの伝統を、『MUTEKING』制作陣がどのくらい意識していたかはもちろんわからない。だが、ネオ・サンフランシスコの街と市民を暗黒化しながら勢力を拡大する巨大企業オクティンク社の姿が、触手を伸ばす恐るべきタコのイメージと何重にも重なっていることは、ここまでで示せたと思う。
しかし、さらに考えたいことがある。『MUTEKING』は「宇宙人としてのタコ」と「独占企業としてのタコ」の「交差点」に立っていると最初に言った。だが交差点とは? 物語終盤、セオとオクティンク社は、「地球を侵略するタコ型宇宙人とその侵略拠点」という正体をあらわにする。そのことと、触手を伸ばす大企業のイメージはどう交わるのか。
ここで特に注目したいのは、オクティンク社が建設したタワーから放たれる怪光線だ。光線はまず真上に放たれるが、上空で枝分かれして横に広がり、ドーム型の空間を形成する。そのドームは、まずはネオ・サンフランシスコを、そしてついには地球全体を覆い、人々や建物を飲みこみ黒く溶かしていく……この恐ろしい光景のなかで、怪光線が8本に分かれていることを見逃してはいけない! ここにはタコがいる! 8本の触手によって地球全体を飲みこむ巨大なタコ!

恐るべきサザン・パシフィック鉄道の触手はカリフォルニアを覆った。だが、オクティンク社の触手は地球全体を覆いつくす! 『MUTEKING』、とんでもないスケールのタコ・アニメである……
「急がないことだ」——名作の条件
ところで、『オクトパス』の著者ノリスには、「名作」(masterpiece)とは何かについて論じた評論がある。長くなるのだが、最後にこの評論を引用したい。偉大な作家は未来を見通すという。だからぼくは賭けてもいいが、サンフランシスコ、そしてタコゆかりのこの小説家は、『MUTEKING』を観ながらこの文章を書いたに違いないのだ!
急がないことだ。〔……〕巨匠の小説の、例えば最初の3分の1を読んでみよ。何も起こっていない、と君は思うだろう。人の移動、今後の計画、街、近所の人。急に事件が起こるが、意味がわからない。場違いな響きが聞こえる。それでも小説は続く。何も進んでないように見える。再び意味不明な響き。だが、今度は少しだけ理解できる。ここでもう、我々は物語にひきこまれている。新しい登場人物ではなくて、既に登場した人物が何度も何度もあらわれる。目の前の場面に登場していなくても、君はその人たちを思い出せる。2人のメインキャラクターにはますます親近感をおぼえてくる。この2人が活躍するちょっとした事件が続き、話の動きはまだゆっくりだが、君は徐々に2人のことを理解してくる。このあたりではじめてスピードが上がるかもしれない。わずかだが話に勢いがついて、これまで場違いだと思っていたあの響きが、話の進行にピタリとはまり、全体と調和して美しく響く。もうすべての人物が揃っている。舞台となる土地のことも君はすでによく知っていて、暗闇のなかでも迷わず歩けるだろう。ヒーローとヒロインも懇意になっている。
さあ、話が加速してきた。状況は急に緊迫し、どちらを向いても危険信号だ。ずっと前、第1章にあったあのエピソード——今では、なぜそこにあの人が登場していたのかよくわかる——それが展開して急に前面に出てきて、話の本筋にぶつかって思いもよらぬ方向に進む。第2章のエピソードも、最近の出来事と合わさって予想外の影響を生み、メインテーマをまた別方向へ展開させる。こんな調子で話はますます速度を増していき、事態の緊張が極限まで高まると、一番はじめの段落からずっと準備されていた「主題」が突如として君の脳裏に閃く、あとは瞬く間に、爆発的な力と崩壊で問題が解決する、つまりはクライマックス、それは怒涛の勢いでページから飛び出し、君はあっけにとられ、息もたえだえ、圧倒されるばかりだ。そして、そこに名作がある。(Norris 1903, pp. 149–151.)
参考文献
- Brown, R. M. (1991). No duty to retreat: violence and values in American history and society. Oxford University Press.
- Caillois, R. (1973). La pieuvre: essai sur la logique de l'imaginaire. Editions de La Table Ronde. (塚崎幹夫訳, 『蛸:想像の世界を支配する論理をさぐる』, 青土社, 2019)
- Choy, P. P. (2012). San Francisco Chinatown: a guide to its history and architecture. City Lights.
- Hugo, V. (1866). Les travailleurs de la mer. Albert Lacroix. (山口三夫・藤原義近訳, 『海に働く人びと(上・下)』, 潮出版社, 1978)
- Michelet, J. (1861). La mer. L. Hachette.
- Norris, F (1901). Octopus: a story of California, Doubleday, Page.
- Norris, F. (1903). The responsibility of the novelist: and other literary essays. Doubleday, Page.
- Stangl, P. (2016). “Geographic and discursive wanderings of San Francisco's “evil” octopuses”, Interdisciplinary Literary Studies, 18(3), pp. 343–371.
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パスワードはアニメ本編登場のパスワードと同じです(カタカナ)
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