柑橘類さんのブログ

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連作ホラー短編アニメ『ななし怪談』各話レビュー(後編)

はじめに

 夏休みといえば怪談! 今夏弊ブログでは、「おはスタ」内で放送の新作怪談ショートアニメ『ななし怪談』に注目しています。

 誰も知らない。知られてはならない…………それが「ななし怪談」ですが、この記事では各怪談の感想をインターネットで全世界に公開してやりますよ。今回は後半5話のレビューをしていきます。前編はこちらです。では、早速見ていきましょう。

【目次】

ななし06「あがり蟲」

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あらすじ
  • 梵(ぼん)、茲(ここ)と一緒に授業の課題に取り組むキッズ。とても熱心に取り組んでいたため、みんなの前での発表はキッズに任されました。ところがキッズは人前ではあがってしまう性格で……
登場怪異
  • 不安を食べて大きくなる怪異 あがり蟲
評価
  • 恐怖:☆☆☆
  • 教訓:☆☆☆
  • 萌え:★★★

 かなりの異色回です。緊張していたら緊張を食う怪異に取り憑かれた、という話はまったく因果応報的ではありません。緊張することが道義的に悪いと考える人は流石にいませんからね。むしろ緊張はいいことです。緊張は成功を願う気持ちの裏返しってひいひいおじいさまも言っていたそうですよ。また怪異もデザイン・演出両面で怖くなく、果たして今話を怪談と認めていいのか怪しいレベルです。

 ただし、別の点では大きな魅力があります。まず全体的な雰囲気はかなりコミカルで、正面から視聴者を笑わせにくる場面もあります。「おもしろ」の基準を立てていたら間違いなく★3でしょう。関連して「萌え」は文句なしに★3です。話の展開上、梵(ぼん)と茲(ここ)が常に画面に出続けており、自由研究に取り組む小学生らしい姿を見ることもできます。そして、不安がる友人を勇気づけようとする二人の姿も大変ほほえましいものです。とくに自由研究に熱心すぎる早口オタクキッズを見つめる梵(ぼん)の優しい瞳には要注目!

 二人の応援によってキッズは緊張を克服することができたため、この回ははじめて怪異を退治しない回になりました。「友達からの応援があれば怪異を克服できる」という話の流れは、今回の評価基準とは別の意味で教訓的ですね。さらに、「除霊するより自然に追い払ったほういい」と梵(ぼん)がほのめかしたり、怪異を退治する際に「怪異採集帳」を使っていることが公にされるなど、本作の設定に迫る側面もあります。加えて、無患子さんのまとめの言葉が怪異側に立っているような……? 総じて、怖くはないのですが非常に印象深い一話になったと言えます。

ななし07「マギラ」

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あらすじ
  • いたずら好きなキッズ。タッチペンと箸、タイヤと消しゴムなど、「紛らわしいものを入れ替える」いたずらを繰り返します。しかしそのうちに自分自身でも色々なものを取り違えるようになっていき……
登場怪異
  • いたずら好きの子にとりつく怪異 マギラ
評価
  • 恐怖:★☆☆
  • 教訓:★★★
  • 萌え:★★☆

 とてもバランスが良い回ですが、もう一歩という印象もあります。「教訓」は文句なく★3でしょう。キッズには最初から怪異が取り憑いているようなのですが、元からいたずらっ子だったことは容易に察せられます。また、紛らわしいものを入れ替えるいたずらを繰り返した結果、自分自身が母親と怪異を間違えてしまう、という顛末も悪行と怪異の内容に調和があります。ただ、教訓譚はつまらない説教と紙一重です。今話はキッズの反省の言葉が長めで、物語をまとめる無患子さんのコメントも含めると、説教臭さが否めなくなっています。説教せず教化するのが子供向け怪談の美点なのでこれは残念です。

 「恐怖」については、母親と怪異を取り違えるシーンは意外性があり恐ろしく感じました。ただ、怪異の造形がファンシーなため絵的な怖さがなく、悩んだのですが★2寄りの★1となってしまいました。前話に引き続きですが、こういう丸っこい怪異のデザインはポスト『妖怪ウォッチ』時代という感がありますね。「萌え」については逆に★3寄りの★2です。茲(ここ)が怪異をキックする絵がこれまでで一番キマっていて素晴らしく、梵(ぼん)と茲(ここ)が学級会を主導するシーンも嬉しい! ただ全体的にキッズメインの回だったため、梵(ぼん)と茲(ここ)の登場場面がやや少なかったのが惜しいです。

ななし08「時喰い」

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あらすじ
  • 何時間もビデオゲームに熱中するキッズ。ところが、ハッと気がつくとゲームを全てクリアしてしまっており、楽しかったプレイ時間の記憶がまったく残っていません。後日、遊びに来た梵(ぼん)と茲(ここ)の前で改めてゲームをプレイしてみると……
登場怪異
  • 時空を食べる怪異 時喰い
評価
  • 恐怖:☆☆☆
  • 教訓:★☆☆
  • 萌え:★★★★

 この回の感想をうまく表現するのが難しく、5日間も頭を抱えてしまいました。「恐怖」については話は簡単で、6話と同じく怪奇自体の怖さはほぼありません。ただし、今話は6話とは違って比較的怪談らしい雰囲気を残しています。その原因は、「時空を食べる」という怪異の摩訶不思議な性質によるものでしょう。怪談には恐怖系怪談だけではなく不思議系怪談もありますからね。

 悩ましいのは「教訓」です。怪異「時喰い」は、「楽しいことに夢中になりすぎた」人に取り憑き、楽しかった時間を食べてしまいます。このために、時間を守らずゲームに熱中しすぎたキッズの記憶がなくなってしまったのですね。自分はこの話の教訓性について、大小2つの違和感をおぼえています。小さい違和感は、「ゲームやりすぎ=悪」という価値観にはちょっと乗れないということです。とはいえこの風潮は根強いですから、この点はまあいいのです。それより大きな、より一般的な違和感は、この話は子供に「楽しむな」というメッセージを発してしまうかもしれないなぁということです。楽しみをほどほどにしておく、つまり「節制」はたしかに重要な徳です。この徳を欠くと、アニメを見すぎて労働に支障が出る私のような存在が生まれてしまいます。ですが、節制はやるべきことを多く課せられた哀れな大人のための徳であって、子供は好きなだけ楽しめばいいのではないでしょうか。この話を見たキッズたちが、時喰いに怯えるあまり、目一杯楽しむことをあきらめないことを祈っています。

 小難しいことを言っておいてなんですが、この回の「萌え」はマジで最高です。茲(ここ)の小ボケに対する梵(ぼん)のツッコミという会話の楽しさが光っています。特に、キッズ宅に訪問するやいなや即お菓子を要求する傍若無人な茲(ここ)と、それを珍しく強い語気でたしなめる梵(ぼん)(ここの青山さんのボイス、1000点です)のやりとりには思わず声が出ました。当初は特例の★5としていたのですが、「梵(ぼん)と茲(ここ)が自宅に遊びに来る」というシチュエーションがあまりにも羨ましすぎたので一つ減らして★4です(妬み)。キッズはゲームやりすぎ罪じゃなくて「梵(ぼん)と茲(ここ)が自宅に遊びに来た罪」で怪異に取り憑かれるべきだろ。

ななし09「紐ほどき」

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あらすじ
  • キッズたちの靴ひもが一斉にほどける事件が発生。結び目をほどく怪異の仕業だとすぐに判明します。見た目もかわいく害も小さそうなこの怪異をキッズは放っておくことにするのですが、その間に怪異の力はどんどん増していって……
登場怪異
  • 結んであるものをほどいてしまう怪異 紐ほどき
評価
  • 恐怖:☆☆☆
  • 教訓:★★★
  • 萌え:★★★
  • サムネ:−★★★★★★★★★★

 パターン外しが気持ちいい一話です。いつもは怪異に厳しい梵(ぼん)が判断を誤るという珍しいシーンを見ることができます。きちんと謝れてえらいね。茲(ここ)はやや出番が控えめですがキッズ救出シーンもかっこよく、「萌え」は★3でしょう。「教訓」についても、「見た目に騙されて脅威を見逃してはいけない」というメッセージが明確にストーリーに反映されています。本編では「登り紐からの落下」という大事故になりかけてはじめて危険性に気づく展開でしたが、実際は靴ひもがほどけるだけでも大事故につながるんだぞと無患子さんがきちんと補足しているのも丁寧です。

 難しいのが「恐怖」です。かわいい系の怪異ではありますが、「次にどんな結び目がほどかれ、どんな被害が出るかわからない」という不安感を煽る話作りの工夫があります。ただ、「体育館の登り綱がほどかれる」という肝心のオチをサムネで初手からネタバレしており、Youtube視聴勢としては残念ながらまったく恐ろしく感じませんでした。「おはスタ」で見ていたら印象が違っていたかもしれません。なおこのサムネイル、ネタバレなのを置いておいても、Youtube特有のクソ煽りサムネのお手本みたいな作りになっており、徳がなさすぎるのでマイナス10点です。良い子はこういうサムネをつくってはいけない。

「←」「このあと・・・」じゃあないんだよ

ななし10「ふたりの茲」

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あらすじ
  • 然の家に宿泊学習に来た梵(ぼん)と茲(ここ)たち。ですが、茲の様子がおかしいことに梵は気づきます。普段より優しい茲に困惑しながらも悪くない気持ちでいる梵でしたが、茲は怪異を倒すのはもうやめようと言い出して……
登場怪異
  • ???
評価
  • 恐怖:★☆☆
  • 教訓:☆☆☆
  • 萌え:★★★★★

 今回は怪異が正体不明で、演出面が若干不気味ですが教訓譚でもありません(あえて言えば、そのままの姿の友達を認めることが大切、という話ではあります)。ですがそんなことはどうでもよくて、今回の見所は何といっても梵の心の動きです。普段は無頓着でマイペースすぎる茲が、急に優しい少年になっている。それに戸惑いつつも、どこか嬉しい気持ちもある……そんな梵の複雑な思いを丁寧に描きながら、二人の茲のどちらを選ぶかの葛藤をクライマックスに持ってくる。ストーリーの見事さに加え、それをわずかな尺の中で説得力をもって見せきった構成も素晴らしいです。「萌え」は天井を余裕で突破して★5としました。舞台が日常から離れたことで二人の服のパターンが変わったのも嬉しい! 

偽物の茲とならダンスもできる......(本物はカブトムシに夢中)

 最終回にふさわしく梵と茲に注目する回でしたが、結局二人の目的や正体はまったく語られないまま終わりました。無患子さんパートはいつもとは少し異なり、今回の怪異と無患子さんに何か繋がりがありそうだとほのめかされてはいますが、その真意はやはり不明です。とにかく核心に踏み込むようで踏み込まない、謎だけが残る一話となりました…………これで最終回なの!? あと42話くらい見せてください! お願いします!!

おわりに

 ということで、「ななし怪談」後半5話のレビューを終えます。後半は恐怖という点では控えめでしたが、前半で作られたパターンを微妙に外して話に様々なヴァリエーションをもたせて視聴者を飽きさせず、また梵(ぼん)と茲(ここ)のタッグの魅力もますます豊かに描かれていたと感じます。

 全体として、個性豊かな10の怪談が語られたとても楽しいアニメーションでした。しかしベスト・エピソードを挙げろと言われれば、文句なしに5話「マゼテ」です。夕暮れの不気味な雰囲気と怪異が正体を表したときの恐怖は未だに深く心に残っています。怖かったね……私も門限を守って生活したいところですが、弊社はあまり定時を守らせてくれないため、せめてマゼテに声をかけられても返事を返さないよう、十分注意したいと思います。

 あまりにも多くの謎を残したまま終わってしまった本作ですが、明日8月24日にはイベントもあるようです。さらなる展開を期待していいのかもしれません。梵と茲にまたいつか会えるといいね。

 さて、誰も知らない、知られてはならない、それが「ななし怪談」です。だからこのブログも僕たちだけの秘密です。約束ですよ?